インプラント治療は歯の欠損部を修復し、咀嚼機能や審美障害を改善させるリハビリテーションであることはよく知られています。
言い換えれば、歯周病やう蝕の治療とは異なり疾病を治療する医療とはいえません。
したがって、ビスホスホネート系製剤投与中の患者様に、急性炎症の原因歯などの理由で、やむを得ず抜歯を行う必要性はあるが、やむを得ずインプラントを埋入する必要性は全くないと考えられます。
米国口腔外科学会のガイドラインには、注射薬を投与されている無症状の患者様に対しても、「強力な注射用ビスホスホネート系製剤(ゾレドロン酸、パミドロン酸)を頻回な投与スケジュールで使用している癌患者には、インプラント治療は決して行うべきではない」とされています。
また、経口薬の投与が3年未満でリスク因子がない症例では、通常の歯科処置を行ってもよいとされていますが、「インプラント治療を行う場合は、将来的なインプラントの失敗の可能性や顎骨壊死の可能性について充分なインフォームドコンセントがなされなければならない」と特筆されています。
したがって、BRONJの発生頻度は低くとも、有効な治療法の確立がない現状では、「ビスホスホネート系製剤が投与されている患者あるいは投与が予定されている患者に対するインプラント治療は、原則として避けた方がよいと考えられる。」
しかし、最終的には治療を行う歯科医師の知識と倫理観、さらに充分なインフォームドコンセントの上に成り立つ患者様の希望という両者の重要なファクターによって、インプラント治療に進むべきかの裁定が下されるべきだと思われます。
そのために私たちは、BRONJに対する知識を修得し、ビスホスホネート系製剤処方医師との緊密な連携を図り、さらにインプラントとBRONJに関連する最新の正確な情報を、患者様に充分に説明し理解してもらうコミュニケーション能力をも備えるべきであると考えます。